遺伝子操作で培養肉の栄養価を高める ータフツ大学がβ-カロテンを含む培養肉を生産

 アメリカのタフツ大学の研究者たちは、牛の細胞を遺伝子操作して、人体でビタミンAに変換される植物性栄養素であるβ-カロテンを含む培養肉の生産に成功した。将来的には培養肉を栄養的に操作し、多様な健康上の利点をもたらすことができるようになる可能性があると示唆している。

 世界中では、何千万人もの人々がビタミンA欠乏症に苦しんでいる。その栄養不足は特に子どもたちにおいて問題となっており、それが原因で毎年50万人もの子どもが失明していると言われている。

 1990年代に食品科学者たちは、β-カロテン遺伝子を追加することによって、遺伝子組み換えされた米の品種を作った。この米は「ゴールデンライス」と名付けられ、過去数十年の間に遺伝子組み換え食品の安全性をめぐる議論の火種となった。

 今日のところ、ゴールデンライスの一般消費を承認している国は世界でも数カ国にとどまっているが、科学者たちは果物や野菜の栄養成分を増幅させるために、遺伝子操作を行う方法を実験し続けている。最近では、「ゴールデンジャガイモ 」と 「ゴールデンバナナ 」の予備研究が行われている。

 タフツ大学の研究者たちは、実験室で育てた肉がゴールデンライスと同じように栄養価を高めることができるかどうかを調査することに着手した。

 科学者やベンチャー企業によって、培養肉がスーパーの棚に並べられる時代も近づいているかもしれないが、この分野の研究のほとんどが、生産を拡大し、ステーキやフライドチキンのような一般的な製品を再現する方法を研究することにスポットが当てられている。
  

「牛はβカロテンを生産する遺伝子を持っていない。」と、この新しい研究の主著者であるアンドリュー・スタウト氏は説明する。
 「我々は牛の筋肉細胞を操作して、このような植物栄養素やその他の栄養素を生産することで、動物の遺伝子組み換えや従来の食肉生産では不可能であった栄養上の利点を培養肉製品に直接与えることを可能にした。」と話す。

 新しい研究は、この種の栄養工学が培養肉に効果的に応用することできることを示すという、概念の実証に過ぎない。
 この研究では、培養肉にこの種の添加物を使用することで、さらなる潜在的な応用性があることが指摘されている。栄養添加が可能なだけでなく、治療用食品は、培養肉に薬剤や、薬剤の吸収を高める化合物を添加して製造することも仮説的には可能であるとしている。

 この研究では、この種の遺伝子操作が肉の発がん性を低下させる可能性があるとの仮説も立てられている。スタウト氏によると、「ゴールデンビーフ 」の細胞のいくつかを調理した後、脂質酸化(がんや老化・動脈硬化などを引き起こす現象)の減少が見られたということだ。

 「細胞がβカロテンを発現し、生産しているときに、小さな小粒程度の細胞を調理すると、脂質の酸化レベルの低下が見られた」とスタウト氏は言う。
 「脂質の酸化は、赤肉や加工肉が大腸がんなどの病気と関連していることを示す重要なメカニズムの一つであるため、この遺伝子操作が潜在的にがんのリスクを減らす可能性があるという主張はかなり説得力があると私は思っている。」と話す。
     

 また、研究に携わるデビッド ・ カプラン氏は、一般の人々に広くこれらの培養肉製品が受け入れられる前に、まだまだ多くの段階を踏まねばならないと話している。一般の人々の受け入れと規制上のハードルは別として、培養肉を適切な量で生産するにはまだ課題が残る。
 しかしカプラン氏は、培養肉に栄養面でのメリットがあるため、少なくとも最初のうちは、製品のためにもう少しお金を払うように消費者を納得させるための効果的な方法かもしれないと考えている。

 「培養肉を工場式畜産の肉と競争力のある価格にするのは現段階では難しいだろう。健康上の利点を提供する付加価値の高い製品であれば、消費者は培養肉製品にお金を支払うことにより意欲的になるかもしれない。」と伝えている。
    

参考サイト:https://newatlas.com/science/vitamin-a-golden-meat-clean-cultured-genetically-engineered-tufts/