クリーンな培養肉は本当に環境に良いのか?

  • 培養肉は従来の畜産のシステムより環境負荷が少ないと言われており、注目されている。
  • しかし長期的に見ると、生きた牛より培養肉を生産する方が環境に悪いという見方もある。
  • 問題点として挙がっているのが、培養肉産業がまだ十分に発展していないため、環境への影響を正確に予想することがまだできないことだ。これは培養肉を生産するエネルギーがどれだけ脱炭素化ができるかによる。
  • 炭素排出の点だけでなく、多面的に見た場合の培養肉の今後の可能性も視野に入れる必要はある。

 ラボで人工的に作られる培養肉は地球環境にも動物にも優しいと言われており、2013年には英ロンドンで人工肉を使ったハンバーガーの試食会も行われ、現在ではさまざまなスタートアップが培養肉の開発に取り組んでいる。

 国連の報告によれば、畜産業から生じる温室効果ガスの排出量は運輸部門のその排出量よりも多いと報告されており、従来からの畜産システムを考え直す上で培養肉は非常に有効な手段だと考えられている*¹。   
                

 しかし、そんな未来への可能性を秘めているはずの培養肉が牛を飼育することに比べ、必ずしも環境に良いわけではないということが、「frontiers in Sustainable Food Systems」に掲載された論文で指摘されている*²。

 一体なぜ、環境に良いと言えないのだろうか。
 論文によると、培養肉の生産における条件によっては、培養肉が必ずしも優れているというわけではないという。
                

ポイント①二酸化炭素とメタンの温室効果の違い

 同じ温室効果ガスでも、メタンが空気中に残っている期間は約12年程であるのに対し、二酸化炭素は数千年にわたって、大気中に留まるという。

 牛を飼育する際は、温室効果ガスの中でも、牛のおならやゲップなどが原因のメタンの排出量の割合がかなり高い。メタンによる、温暖化の影響は生産を始めた後、すぐに大きくなっていく。
 しかし二酸化炭素と違い、長期間にわたって大気中に蓄積することがないので、数十年後にはその温室効果は増加せず、ある程度一定に保たれる。

 一方、培養肉の生産においてメタンなどは発生せず、生産過程でのエネルギー利用が原因による二酸化炭素の割合がほとんどである。排出が始まれば、二酸化炭素の性質上大気中に蓄積し、温暖化の影響が大きくなり続けていくということだ。
      

ポイント②1000年後など長期的に見る

 つまり、培養肉は短期間では一見、環境に良いと考えられるかもしれない。しかし、その生産のために利用するエネルギーによっては、本物の牛を育てることよりも数千年という単位で見た場合に、温暖化に加担してしまう可能性があるということである。
     

ポイント③培養肉が生産される際のエネルギー資源

 ただし、この論文で提示されたモデルはどれも仮定のものであり、実証されているものではない。ここでは培養肉の生産におけるエネルギーは化石燃料に頼るという前提になっているが、将来再生可能エネルギーなどに移行し、温室効果ガスが出ないようにすることなども考えることができる。

 また、環境負荷を考える際に温室効果ガス排出の点だけでなく、他の側面を考える必要もあるだろう。例えば、畜産における土地の利用や飼料や水などについての点、肉の安全性という点、倫理面、さらには将来の人口増加における食糧確保の手段としての点などが挙げられる。これらを総合的に考えた場合に、培養肉の利点が多くあると考えられる。
   

 今回の仮定では、培養肉が環境に優しい持続可能な代替案だと必ずしも言えないということが指摘されたが、今後さらに発展していく培養肉産業において、全てが一概に言えるものではないということは強調しておきたい。
 生産における利用エネルギーに関しても、培養肉産業の今後の成長に伴い環境への影響を測っていき、持続可能な生産システムを構築することが期待されるだろう。

*1 https://news.un.org/en/story/2006/11/201222-rearing-cattle-produces-more-greenhouse-gases-driving-cars-un-report-warns
*2 https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fsufs.2019.00005/full