「肉税」とは何か?ヨーロッパで議論が行われる理由

 「肉税」という言葉を初めて聞いた方も多いのではないだろうか。これまでのところ、肉税を導入している国はない。しかし、ヨーロッパの国々では数年にわたり議論が行われている。また、昨年イギリスの専門家は、環境と健康への影響を考慮して、2025年までに肉に気候税を課すべきだと主張する報告を出している。*1

●目次

1. 畜産業が及ぼすもの
2. 肉税と悪行税
3. ヨーロッパにおける肉税の議論
4. 肉税導入における争点
5. 導入を求める声
6. 今後、日本では?

    

1. 畜産業が及ぼすもの

 畜産から排出される温室効果ガスは、地球上で排出される温室効果ガスの約18%を占めており、それは、車などの輸送機関が排出する温室効果ガス全体の量より多いことが報告されていることは、これまでにも幾度と指摘がされている*2。また、人口増加にともない、肉の消費は今後も増加されることが予想される。

 イギリスのオックスフォード大学の2018年の研究によれば、2050年には世界人口が97億人に達することが予想される中、欧米諸国は現在の肉の消費量を90%削減する必要があると言われている。

 上記の問題を解決した場合、健康・医療費の点において、顕著な効果が期待される。例えば、アメリカは肉食を制限することで、その膨大な医療費を最も節約できると考えられている。アメリカでは一人当たりの医療費が非常に高いため、国民が推奨されたガイドラインに沿って食事をすれば1800億ドル、動物性食品を完全に排除すれば2500億ドルの節約が可能であり、これは中国やEU諸国を合わせた額よりも多いということをオックスフォード大学のマルコ・スプリングマン博士は推測している。*3

 温室効果ガスの削減だけでなく、人々の肥満や慢性病などを防ぎ、健康増進にもつながるのだ。

   

2. 肉税と悪行税

肉税とは―Sin Tax(悪行税)

・何に対する課税なのか?

 前述したような温室効果ガスやその他の多くの地球環境へ大きな影響をもたらす畜産に対するものへの課税ということが一つ考えられる。(地球環境)また、欧米諸国や先進国などでの過剰な動物性食品の摂取による健康への悪影響に対するものへの課税というものがあるだろう。(人々の健康への悪影響)

 このような税制を講じることで、人々の肉類の消費を抑え、地球環境、人間への有害な活動を減らすことができると期待されている。

   

悪行税(害悪税)とは

 いくつかの国々で肉類にも課税が検討されているこの悪行税または、害悪税とも呼ばれる税は、社会や健康に良くない影響をもたらし得る嗜好品などの一定の商品に課せられる税金のことである。日本では主に、たばこや酒類などが挙げられ、実際に、たばこには約6割程の税がかけられており、最も税負担律の重い商品となっている。*4

・食品への悪行税の例

 

 主に、健康への影響を懸念した食品関連の課税では、先述した酒税を始め、砂糖や人工甘味料を含む飲料への課税であるソーダ税・砂糖税、また、肥満や高血圧の原因と考えられる食品の購買力を低下させようとするファット税(肥満税、ジャンクフード税、ポテトチップス税、など取組み、呼称は様々である)などが様々な国々で取り入れられている。

 これらの税に対しては、国民の健康を増進し、医療費削減が期待される一方で貧困層への負担や国民の好みへの過剰な干渉として、過保護国家の一部になるとして、批判の声も多い。

 では、実際に肉税が検討される国々では、どのような議論が起きているのだろうか。

    

3. ヨーロッパにおける肉税の議論

ドイツ

 ドイツでは、動物福祉や気候変動の観点から、肉税を導入することが議論されている。

 通常の税率は19%となっているが、生活必需品とされている商品(例:肉も含む、パン、牛乳などの食品や書籍など)には、軽減税率が適応され7%となっている。 

 その中、2019年にドイツ社会民主党(SPD)と緑の党の議員らが肉の付加価値税の税率を19%に引き上げることを提案した。肉の軽減税率を廃止することで、人々の肉の消費量を減らすのが狙いであるという。

 ドイツ社会民主党(SPD)の農業政治家と緑の党は、食肉への付加価値税の引き上げに賛成している。緑の党の農政代表者のフリードリッヒ・オステンドルフ氏は、食肉の減税を廃止し、より多くの動物福祉に充てることに賛成しており、「なぜ肉には7%、オーツミルクには19%の税金がかかるのか不可解だ」と付け加えている。

 ドイツキリスト教民主同盟(CDU/CSU)議員団の農政代表者のアルベルト・シュテゲマン氏は、これらの提案には前向きな姿勢を示し、「そのような税は建設的な提案になり得る」と述べた。しかし、そのためには、農家を助けるために追加税収をその支援に回すべきなどの意見も述べている。社会的に受け入れられる持続可能な畜産への道は、ドイツの農家だけでは耐えられない数十億のコストがかかるということだ。

 食肉増税案に対する批判は、左翼党(Die Linke)、自由民主党(FDP)、ドイツのための選択肢(AfD)の政治家からも寄せられた。*5

 

デンマーク

 2016年には、デンマーク倫理評議会が、気候の影響に応じて牛肉から始め、そして最終的にはすべての食品に課税することを検討することを提案した。

 全国的に赤身肉に課税することを検討しており、これは、世界的な気候変動を推奨されている制限値2℃以下に抑えるために必要なことであるとした。*6

 ちなみにデンマークでは、2011年からバターやチーズ、牛乳などの乳製品や肉類などの飽和脂肪酸が2.3%以上含まれる食品に対して脂肪税(肥満税)が導入されたが、一年で廃止されている。

    

スウェーデン

 スウェーデンでの食肉税導入計画は2013年にスウェーデン農業委員会によって議論されたが、結果は得られなかった。環境キャンペーングループであるSwedish Food and Environment Information (SMMI)が立ち上げた請願書が7,000人以上の署名を集めたことで、このコンセプトへの関心が再燃した。*7

     

●肉税導入における争点

 肉税を導入する上で、議論の点となるのは主に以下が考えられるだろう。

・食料品価格の全体的な高騰

 生活必需品である食品に課税がされることで、生産者でなく、消費者に負荷がくる点も問題として考えられる。

・低所得者の負担が大きくなる

肉以外のタンパク質の供給源である商品を購入できない低所得者の税の逆進性の問題が予想され、それに対する緩和策の必要性があるだろう。

・農家への支援

 健康の増進が高まることが予想されるがそれによる医療費削減や、またその追加税収から農家の減収への支援されることが必要になるかもしれない。

・オーガニック肉への税率はどうなるのかなど

 また、ドイツのように、動物福祉や気候変動の観点から取り入れる場合、工場型畜産ではなく、平飼いなどで育ったオーガニック肉には、課税するべきなのかという点も議論に含まれると予想される。

・課税への理解が得られるか

 肉類は一概に体に悪いとは言えないこともあり、課税への理解が得られるかという課題もある。また、酒やたばこなどの嗜好品よりも幅広い層が対象となることから受け入れられるかも問題となる。

    

●導入を求める声

 前章で肉税を導入する際の争点について、述べてきた。実際、各国では、気候変動や地球環境、人々の健康などの観点から、肉税を導入するように求める声も挙がっている。

 例えば、オックスフォード大学のスプリングマンらは、世界各国の政府が赤肉および加工肉に税金を導入することを提案している。課税により、医療費を賄うことができ、さらには、年間20万人以上の死亡を防ぐことができるだろうと考えられている。*8

 また、スウェーデン農業科学大学の「スウェーデンの肉消費税」という調査では、牛肉、豚肉、鶏肉すべてに同時に税を導入すると、温室効果ガス、窒素、リン、アンモニアの排出を少なくとも27%削減できると見積もっている。*9 温室効果ガスが削減できれば、地球温暖化の対策に繋がることは、言うまでもないが、窒素、リンの排出削減を行うことで、期待できるものもある。スウェーデンをはじめとするバルト海周辺の国々では、窒素とリンによる湖や海で藻の発生や、森林での栄養過剰など問題となっていたため、これらの問題解決にも繋がるのだ。

 英国のシンクタンクである王立国際問題研究所(Chatham House)は、国民に食生活での意識を高めるために肉の消費量を減らすように税金を導入するよう政府に呼びかけた。*10

 肉税導入を促進する連合のTrue Animal Protein Priceも立ち上がっており、肉や乳製品の生産と消費をより持続可能なものにするために、肉類に公正な価格と税金を求め、欧州議会に働きかけている。

      

●今後、日本では?

 日本は欧米諸国と比べると、肉の消費量は少なくなっているが、そんな日本であれば欧米諸国に比べ、肉税を取り入れることも容易だろうか?今後日本では、検討されることはあるのだろうか。「保健医療2035提言書」(2015年厚生労働省が発表)には以下のような記述がある。

公費(税財源)の確保については、既存の税に加えて、社会環境における健康の決定因子に着眼し、たばこ、アルコール、砂糖など健康リスクに対する課税、また、環境負荷と社会保障の充実の必要性とを関連づけて環境税を社会保障財源とすることも含め、あらゆる財源確保策を検討していくべきである。*11

 肉類への指摘はないが、今後、地球環境を考え、また社会保証の充実の点においても、検討されても良いのではないだろうか。また、上記のように、環境税の一つとして、取り入れられることも可能かもしれない。多くの議論が必要となるだろう「肉税」だが、世界、日本の今後の動向も注視していきたい。

      

参考サイト

*1 https://www.theguardian.com/environment/2020/nov/04/uk-health-professions-call-for-climate-tax-on-meat

*2

https://news.un.org/en/story/2006/11/201222-rearing-cattle-produces-more-greenhouse-gases-driving-cars-un-report-warns

*3

https://www.theatlantic.com/business/archive/2016/03/the-economic-case-for-worldwide-vegetarianism/475524/

*4

https://www.jti.co.jp/tobacco/knowledge/tax/index.html

*5

https://www.zeit.de/politik/deutschland/2019-08/tierschutz-mehrwertsteuer-spd-gruene-fleisch-steuer?utm_referrer=https%3A%2F%2Fwww.google.com%2F

*6

https://www.treehugger.com/denmark-considers-national-tax-red-meat-fight-climate-change-4850990

*7

https://www.thefuturescentre.org/signal/sweden-considers-meat-tax-to-encourage-sustainable-diets/

*8

https://www.cnbc.com/2018/11/07/health-experts-propose-a-red-meat-tax-to-recoup-172-billion-in-health-care-costs.html?__source=twitter|main

*9

https://pub.epsilon.slu.se/9294/1/sall_s_121214.pdf

*10

https://www.chathamhouse.org/2015/11/changing-climate-changing-diets-pathways-lower-meat-consumption

*11

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000088654.pdf

  

ネクストミーツ 公式オンラインショップ
100%植物性で地球にも身体にもやさしい代替肉商品を販売中!