今話題の培養肉って何?

今回は、今まで幾度と触れてきた代替肉の一つである培養肉がそもそもどんなもので、どのようなメリットがあり、どういった企業が取り組んでいるのかなどについて、解説する。

目次

1.そもそも培養肉とは何なのか
2.培養肉のメリット
3.どんな企業が取り組んでいるのか
4.培養肉の課題や今後の展望
5.まとめ

   

1. そもそも培養肉とは何なのか

最近は、大豆から作られた植物性の代替肉を様々な場所で目にすることが多くなったかもしれないが、培養肉はそれとは違う。培養肉は牛や豚などからサンプルを採取し、人工的に細胞を培養して作る食肉のことである。つまり、植物から作られたものではなく、本物の肉から作られる、限りなく、従来の食肉に近いものだが、人工的に製造するという点が完全に異なる。

 また培養肉は、シャーレなどの容器に細胞が成長するための様々な栄養分が含まれる培養液にひたされて細胞が培養される。培養の仕方には、比較的容易な単一の細胞を培養する方法とそれに比べ、難易度が高く、立体的に細胞を組みなおして培養する方法とがある。血管、脂肪、筋肉などがある食肉の再現を目指すために、後者の開発に取り組む企業も多くある。

   

2. なぜ培養肉なのか

培養肉のメリットとして多くのことが挙げられる。

(1)食料問題の解決

一つ目は食肉供給不足への対応という点がある。世界人口の増加に伴い、食肉需要も増えると予測されている。家畜の飼育やそのための飼料栽培には、広大な農地が必要である。しかし、その農地拡大により気候変動などの影響も考えられるため、これ以上家畜を増加させることは厳しいと考えられている。そのため、植物性の代替肉と並んで、代わりとなる選択肢として注目を浴びている。

(2)温室効果ガス削減

畜産業から生じる温室効果ガスの排出量は、運輸部門の全体のそれに匹敵するという、国連からの報告もある。家畜を飼育する際には、家畜から排出されるメタンガスの問題がよく挙げられる。このメタンガスは、二酸化炭素と比べ、温室効果が高いと言われている。また、育てた家畜を運送する際に排出される二酸化炭素などの点も考慮できるが、こうした畜産業から排出される温室効果ガスの温室効果の影響については、以前の記事でも、取り上げている。→クリーンな培養肉は本当に環境に良いのか?

(3)土地、水などの資源の節約

三つめは環境保護の点である。家畜を育てるためには、大量の水や穀物などの資源が必要である。これらの資源を効率良く使うという点において、植物由来の代替肉も含めた代替肉は、従来の畜産と比較して、少ない資源からより多くのタンパク質を作り出せるので、資源利用の点においも効率的であるといえる。

(4)食の安全性

従来の畜産には、食肉処理場での糞便汚染という問題がある。解体中に出る腸内の糞便なども汚染源になっているという。大腸菌やサルモネラ菌などの腸菌は、この糞便汚染が原因で、肉に付着するといわれている。それらの心配がない培養肉は、食の安全面でも有利である。

(5)動物福祉

これについては、言うまでもないが、動物を殺処分しなくてすむので、培養肉を始めとする代替肉は動物を守ることができる。培養肉の生産の過程で、当初は生まれたばかりの子牛を殺さなければいけない問題点もあった。後に詳しく述べるが、研究開発によって、この問題も解決されつつある。

(6)伝染病が大流行するリスクを減らす

現在も感染が拡大中の新型ウイルスや、毎年、養鶏場での鳥インフルが確認されるなどの報道もあるように、従来の畜産は、人間が未知のウイルスと遭遇し、伝染病を大流行させる原因の一つとなっている。1918年のスペイン風邪の大流行を引き起こしたのも、鳥インフルエンザと言われているそうだ。培養肉のような従来の畜産とは、全く異なる方法であれば、ウイルス発生のリスクを根本的に減らすことができるだろう。

(7)人間の抗生物質への耐性の問題を解決

 畜産動物には、過密な飼育環境による病気の予防のため及び成長の促進のために抗生物質やホルモン剤が投与されている。このような食肉を食べた人間に治療の目的で投与される抗生物質が効かなくなるという懸念がされている。この点でも、細胞から培養する肉には、大量の抗生物質を投与する必要がないので、人間の健康を守ることもできる。

(8)栄養などが調節できる

以前の記事(遺伝子操作で培養肉の栄養価を高める ータフツ大学がΒ-カロテンを含む培養肉を生産)でも、取り上げたように、人工的に生産されるので、栄養価を高めることもできれば、逆に、肉に含まれる脂肪やコレステロール値の調整も可能であると考えられている。

ここまでは、培養肉だけでなく、植物性代替肉も含めた代替肉全般のメリットについて述べた。植物性代替肉と比較した培養肉のメリットには、安定供給という点が挙げられる。三井物産戦略研究所の報告によれば、現在、市場に出回っている植物由来の代替肉は、原料調達において気候変動が安定供給に影響を及ぼすことが懸念されいているという。また、培養肉は、植物由来の代替肉と比べ、年単位での生育過程を必要としないこと、人工的な屋内生産のため、環境負荷も小さく、気候変動の影響を受けにくいこと、国・地域の制限などがなく、環境が整えば、どこでも生産ができるというメリットが挙げられている。

    

3. どんな企業が取り組んでいるのか

では、培養肉の生産に取り組んでいる企業にはどんな企業があるだろうか。

・海外

①モサ・ミート(オランダ):オランダのマーストリヒト大学のマーク・ポスト教授が2013年に世界初の培養肉ハンバーガーを作り、培養肉のパイオニアといえる。

②メンフィス・ミーツ(米):2017年に世界初の培養鶏肉と培養鴨肉の製造に成功している。ビル・ゲイツやリチャード・ブランソンなどの著名事業家や食肉世界最大手・タイソン社などからの出資を受けている。

③イート・ジャスト(米):植物性の代替卵や代替マヨネーズで有名。鳥山畜産食品(群馬県渋川市)と提携し、和牛の細胞から作る世界初の「培養和牛肉」の提供を目指している。

④アレフ・ファーム(イスラエル):培養する際に筋細胞、血液細胞、脂肪細胞、支持細胞それぞれを培養し、三次元的に組織を形成するのが特徴。完璧な赤身肉の再現を目指している。

⑤スーパーミート(イスラエル):最近、培養肉のレストランを世界で初めてオープンし、培養鶏肉を提供している。→世界初の培養肉レストランがイスラエルにオープン

⑥パーフェクト・デイ(米)(培養牛乳):2014年に2人のベジタリアンである、環境保護に取り組む若い科学者によって設立された。3Dプリンターを用い、微生物の発酵の力を使い、人工的ミルク、またアイスクリームなどを作る。→PERFECT DAYがプラントベースの乳製品に、Cラウンドで3億ドルの資金調達を完了

⑦クララ・フーズ(米)(培養卵白):酵母を使って卵白などのお菓子作りの材料や栄養補助食品などを人工的に製造する。

・国内

①インテグリカルチャー:CulNetシステムという独自の汎用大規模培養システムを用い、培養上清液を使ったコスメ・サプリなどのウェルネス・ビューティー事業や、将来的には培養肉事業なども展開していく。「SpaceSalt」という培養液を宇宙での調味料として商品化するなど、様々な宇宙開発プロジェクトにも参加している。

②日清食品+東京大学:日清食品と東京大学、生産技術研究所の竹内昌治教授の研究グル―プは、牛肉由来の筋細胞を用いて、サイコロステーキ状のウシ筋組織を作製することに世界で初めて成功した。

    

4. 培養肉の今後

先にも述べたように、培養肉の生産、製造に取り組む企業は年々増加しているものの、試食などで、培養肉を提供している段階であり、未だ、手頃な価格で市場に出回っていない。

また、肉の食感についても、課題が残る。細胞から作られる培養肉には、肉の食感を感じさせるための筋組織が含まれていない。その筋組織の再現、そして、それを既存の食肉の価格と比較しても、手頃な価格で、大量に製品化できるようにすることが、大きな課題であろう。

そして、当初は、培養肉を生産する際には、妊娠中の母牛を殺し、そこから胎児をとり出し、その血清を胎児の血液から抽出するという動物福祉とはほど遠く、価格を高くさせる原因でもあった。しかし、現在は、多くの企業が非動物由来の成長因子を開発したり、そのために培養肉生産を行わずに、動物由来でない成長因子を用いた培養液の開発のみに集中する企業も出てきている。

    

5. まとめ

今後、ますます注目が集まるであろう培養肉は、その課題もテクノロジーによって解決されつつある。あとは、私たち消費者が細胞から培養された肉を食べたいと思うかどうかという心理的側面も重要になってくるだろう。

     

参考文献および参考サイト

・ポール・シャピロ『培養肉が世界を変える』日経BP。
・三井物産戦略研究所 技術・イノベーション情報部コンシューマーイノベーション室 佐藤佳寿⼦『培養⾁⽣産技術の課題と今後の展開』
https://www.mitsui.com/mgssi/ja/report/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/11/10/2011t_sato.pdf
・国連サイト:
https://news.un.org/en/story/2006/11/201222-rearing-cattle-produces-more-greenhouse-gases-driving-cars-un-report-warns