培養肉革命「肉の持続可能性」

「増え続ける世界の人口を養うために、限られた土地と水資源をどのように利用するのか。」

これは21世紀の最大の課題となるだろう。
国連の科学者は、畜産は土地の劣化、生物多様性の損失、地球温暖化、大気汚染、水質汚染など、世界の深刻な環境問題の主な原因の一つになるとしている(FAO=国際食糧農業機関 2006)。
将来、畜産による食用肉が培養肉に取って替わることにより、土地と水の保全、生息地の保護、温室効果ガスの排出量の削減、糞尿汚染や抗生物質の過剰使用が減り、これらの課題を解決することができる。

環境に優しい培養肉(クリーンミート)

伝統的なシステムでは、肉は飼育された動物の屠殺で調達されている。
培養肉は従来の食肉と同様に動物細胞からできていて、作り方としては幹細胞をカルチベーターで培養して肉の塊に仕立てる。
培養肉のサプライチェーンと伝統的な食用肉を比較すると、飼料用作物の栽培、農機具や施設の運営、スーパーへの製品の物流など、多くの共通点で構成されているが、いくつかの重要な違いもある。培養肉のほうは生産がより速く、より効率的で、廃棄物や動物の屠殺を減らすことができるのだ。

環境負荷の主な原因は食肉生産

農地の4分の3以上が牛、豚、鶏の飼育に使われているが、動物性食品は世界の食糧カロリーの18%、タンパク質の25%しか提供していない(Mottet et al.2017)。 しかし従来の食肉文化はすでに巨大マーケットとして定着しており、なかなか変えることのできないものだ。
2017年の持続可能性レポートの中で、米国農業・牧場連盟(U.S. Farmers and Ranchers Alliance)は、2005年〜2011年の間だけでも牛肉のサプライチェーンにおけるエネルギー使用と温室効果ガスが2%増加していることを指摘している(USFRA 2017)。 それに比べて、クリーンエネルギーを利用するだけで、培養肉工場のライフサイクル排出量を40~80%削減することができる。 そのため、培養肉は、環境ストレスを軽減しながら、消費者の食肉ニーズを満たす方法を提供することができる。

土地・水の保全

肉を育てることは、動物を育てるよりも早く、廃棄が少ない。 土壌、水、生息地、その他の重要な資源を保護できる。 工業化された畜産では、飼料作物を大量に栽培する必要がある。 作物の大部分は、最終的には肉ではなく糞尿に変換される。 培養肉の土地利用効率は 家禽(かきん)よりも60%~300%高く、牛肉よりも2000%~4000%高い(Hanna L. Tuomisto, Ellis, and Haastrup 2014; Mattick et al. 2015)。 例を挙げると、アイオワ州の1エーカーの土地では、年間1,000ポンドの鶏肉を生産することができるが。 同じ土地でも1700~3500ポンドの培養肉を生産でき、残りの土地では穀物や野菜、果物を生産することができる。

培養肉はその効率の良さから、人間の最も破壊的な行動の一つである動物飼育のための森林や草原の伐採を防ぎ、それに対抗するものでもある。 培養肉は、世界中の飼料用作物のために野生の土地を伐採する圧力を取り除きながら、動物性タンパク質の需要の増加に対応することができる。 この革新的なアプローチは、持続不可能な化学肥料の使用を減らし、繁殖と家畜のための生息地の「生物的な絶滅」を防ぐのに役立つだろう(Ceballos, Ehrlich, and Dirzo 2017)。
重要な生息地の喪失は、生物の大量絶滅を引き起こすだけでなく、水循環、気候、そして私たちが依存している地球システムを揺るがすことになる(Steffen et al.2015)。

地球規模の気候変動に対峙

培養肉は、消費パターンを変えることなく、政府や企業が気候目標を達成することに役立つ。 食品関連の排出量を削減するための10の選択肢のうち、従来の食肉の一部を培養肉に置き換えることは、土地需要の大幅な削減に伴う追加的な利点を考慮に入れずに、3番目に効果的な選択肢である(Mohareb, Heller, and Guthrie 2018)。

下記に例をあげるとする、

土壌改良:飼料作物用の耕作地の最低10%に自生する草地を復元することで、年間4,000万トンのCO2を土壌に蓄えることができる。

バイオエネルギーとの連携:食料生産に適さない牧草地や草地に植えられた木や草は、土壌を改善し、生物多様性を回復させながら、低炭素のバイオ燃料を提供することができる。

森林破壊の削減:より少ない土地でより多くの肉を生産し、培養肉で、世界中の牧草地や飼料作物の森林破壊を防ぐことができ、気候変動を2℃以下に抑えるために必要なステップとなる。

炭素の捕捉と隔離:細胞培養の特性により、生産者は細胞が「吐く」ときにCO2を捕捉することができるため、二酸化炭素を排出せずに肉を生産することができる。

既存の養鶏場と比較して、培養鶏肉は、土地利用を35~67%、栄養汚染を70%削減することができる。 培養牛肉はさらに大きく、土地利用を95%以上、気候変動排出を74%から87%、栄養汚染を94%削減している(Hanna L. Tuomisto, Ellis, and Haastrup 2014; H. L. Tuomisto and de Mattos 2011; Mattick et al. 2015)。

さらに、これらの結果は、商業的な食肉農業組織が収益性と効率を向上させるためにほぼ確実に行うであろう効率化対策の多くを考慮に入れていない。 培養肉生産に熱交換器、栄養循環、クリーンエネルギーを取り入れることで、環境負荷を大幅に低減することができる。

汚染を減らし、命を救う

糞尿がないため、養殖肉は農業の最も壊滅的で致命的な影響の1つを回避することができる。 米国の家畜は年間10億トンの糞尿を生産し、農村部の水と空気を汚染し、疫病を蔓延させている(EPA 2013)。 牛、豚、鶏の農家は、何千もの別々の廃棄物源に対処しなければならないが、培養肉システムは、使用済みの細胞培地やその他の廃棄物を発生源に封じ込めて処理する。生産者に貴重な栄養物質を回収する機会と金銭的インセンティブを提供できる。 研究によると、培養肉は鶏肉と比較して75%、牛肉と比較して98%の富栄養化を減少させることが示されている。 そして、慎重に管理されたシステムの中で、培養食肉を生産することで、有害な大気汚染を完全に排除することができる。

食品の安全性:抗生物質耐性と残留細菌

培養肉はまた、食中毒と抗生物質耐性という農業汚染の2つの主要な人間の健康被害を排除する。 培養肉は、動物の糞に汚染された肉や野菜のために毎年何千人ものアメリカ人が入院するのを防ぐことができる。 米国では、ほとんどの抗生物質は、成長を促進し、病気の状態で動物の生存を維持するために、産業農場の動物に低用量で使用されている(Hakim 2018; Harvey 2018)。 このような低用量では、細菌は耐性を持つようになる。 英国政府の報告書によると、抗生物質耐性は2050年までに世界経済に100兆ドルのコストがかかるとされている(O’Neill 2016)。 日常生産で抗生物質を使用しないことで、培養肉はこの脅威を回避し、毎年何百万人もの命を救うことができる(O’Neill 2016)。

結論

農業資源を節約し、大気汚染や水質汚染の主な原因を取り除くことで、培養肉は食品生産の環境への影響を軽減し、幅広い持続可能性の目標の達成に貢献できる。 土地や水の利用効率を上げることで節水にもつながる。 培養肉は、気候変動の影響から人類を守るために、食品生産システムからの二酸化炭素排出量を削減する多くの手段を提供している。 糞尿や抗生物質を排除することは、農村地域の健康を向上させ、アメリカの水路を回復させ、命を救う薬の効果を確実なものにする。 企業や都市、国にとって、培養肉はより健康的で効率的で公正な食品生産システムを構築するための強力な持続可能性のツールとなるはずだ。

編集:劉冠廷

According to: [THE GOOD FOOD INSTITUTE]

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