私たちと気候変動問題

 今回は私たちの普段の “食” が、気候変動問題とどう密接に関わっているかについて取り上げる。近年世界各地で多発している気候変動や現在の畜産業が地球環境に及ぼす影響などについて改めて考え、ライフスタイルという観点からどのように地球環境を守ることができるのかを模索していきたい。

 ●目次

  1. 気候変動について
  2. 日本の気候変動への対策-カーボンニュートラルとは
  3. 畜産が地球環境に及ぼす影響
  4. まとめ 

  

1. 気候変動について

 日本では毎年のように大型の台風が各地で被害を出している。海外でも、2019年のベネチアでの高潮の被害や、オーストラリアでの大規模な森林火災などは記憶に新しい。これらの気候変動による自然災害は、人間による温室効果ガスの排出が起こす地球温暖化の影響が大きな要因だと考えられている。

 2015年のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された国際的な枠組みである「パリ協定」では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をするという目標が掲げられている。そのためには、途上国を含む全ての主要排出国が温室効果ガスの排出削減に取り組んでいかなければならない。

 また、ニューヨークに設置されている気候時計(Climate Clock)では、地球が取り返しのつかない状態になるまでに温室効果ガスの排出をゼロにしなければならばいタイムリミットまでを残り6年116日(2021年09月07日時点)としている。←掲載日に再確認

 つまり、気候変動への対策は急を要するものなのだ。

    

2. 日本の気候変動への対策

 日本は中国、アメリカ、インド、ロシアに次いで現在世界で5番目に二酸化炭素(温室効果ガスの一種)の排出量が多い国である*1。 菅首相は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするということを所信表明演説で発表した。さらに昨年11月には、衆議院の本会議において、「気候非常事態宣言決議案」が可決され、遅ればせながらも日本もようやく他国と足並みを揃えらえるようになったのではないだろうか。

 では、「温室効果ガス2050年実質ゼロ」実現のために、具体的に何を行っていくのだろうか。そもそも温室効果ガス実質ゼロというのは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量と、森林整備などによる吸収量が釣り合った状態を指す。

 主要な温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を産業別で見ると、発電などのためのエネルギー部門がその約4割を占める。菅首相も演説のなかで日本の電力構成についてふれ、再生可能エネルギーの促進などについて指摘した。

 この2050年の目標を達成させるためには指摘されたエネルギー部門を始め、全ての産業、個人が温室効果ガスの排出を削減する努力も必要であろう。例えば個人ができることとしては、家庭で使用している電力について見直してみたり、さらには普段の食事を少し変えてみたりすることで、温室効果ガスの削減に貢献することは可能であろう。

 今回は私たちの普段の生活から考えてみたいと思う。日本は世界と比較すると、一人当たりの食肉の消費量はそこまで多い国ではないが、ここ数十年でその消費量は増加しており、年々右肩上がりに増加している*2。

  なぜここで急に食肉の話をするのか、疑問に思った人もいるだろう。それは、畜産業から排出される温室効果ガスも無視できないほど多く、その量は運輸部門の排出量を超えるとの報告があるからだ*3。

    

3. 畜産が地球環境に及ぼす影響

 反芻(はんすう)動物である家畜から出る温室効果ガスのメタンガスについては有名である。また、家畜の飼料の生産のために大量の資源が使われる。大量の水、そして家畜を育てるための広大な土地が必要となる。

●水量、水質汚染

 畜産動物を育てるには、動物に与える穀物を育てたり、動物が飲む水などを合わせると、膨大な水が必要となる。例えば、1kgの牛肉を作るために必要な水は15,415リットル、豚肉では、5,988リットル、鶏肉では4,325リットルとなっている*4。 この水の量を分かりやすく例えるとすれば、この三種類の家畜の中でも比較的、使用する水の量が少ない鶏肉をたった一晩夕食のメニューから外すだけでも、半年間シャワーを浴びずに我慢するより多くの水が節約できることになるという*5。

 つまり、お風呂やシャワー時に使用する水や、洗い物などの私たちの普段の水の量を節約することを考えるよりも、まずは、一食のメニューから動物性食品を除くだけで、これほどの膨大な水を節約することができる。

 また、未処理の動物の糞尿が人々の生活用水や土壌を汚染するという水質汚染の問題もある。水質汚染により生態系だけでなく、人間の健康への影響もあるということだ。

●穀物

 世界の人口増加に伴い、食糧危機への懸念がされている中、人間が食べられる作物を家畜に与えてから、畜産物として消費することは非効率であり、効率良く資源を使うことが重要となっているだろう。

 例えば、穀物の一つである大豆の75%は大豆の主成分である大豆ミールになる。その部分の98%は畜産用飼料になり、残り2%は大豆ミールから作られる加工食品になる。大豆の19%は油であり、食用油や燃料としてなど利用され、人が直接消費したり豆腐などの大豆加工品になるのは6%に過ぎないということである*6。

 家畜に与えれる穀物を見直すことができれば、飢餓で苦しんでいる人々にその食料を十分にいきわたるようにすることができるということである。

●土地

 家畜を放牧するための広大な放牧地、家畜の飼料には大豆など穀物の生産が必要だが、その際に同様に広大な土地が必要となる。『サイエンス(Science)』誌の2018年のレポートによれば、私たちのタンパク質のわずか37%、カロリーの18%しか与えない肉、魚、卵、乳製品のために使用される農耕地が占める割合は、世界の農耕地の83%にものぼるそうだ*7。

●温室効果ガス(メタン、二酸化炭素など)

 上述したように、反芻動物である家畜からはオナラやゲップとして、メタンが排出される。その他にも、輸出などの運送において二酸化炭素も排出される。

 そして、その畜産から排出される温室効果ガスは、地球上で排出される温室効果ガスの約18%を占めており、それは、車などの輸送機関が排出する温室効果ガス全体の量より多いことが報告されている*8。

●森林破壊

 アマゾンの森林火災の件がよく取り上げられるが、その火災も自然のものではなく、人為的に焼き畑を行い、畜産のための土地を確保するためのものであると指摘されている。

 森林を守ることは、地球温暖化を防ぐための一つの大きな解決策としても挙げられる。なぜなら森林は二酸化炭素を吸収し、それを地上部および地中に貯蔵してくれるからだ。つまり、森林が破壊されるとその中に蓄えられていた二酸化炭素も放出され、さらにその二酸化炭素を吸収する森林が減ることから、二酸化炭素が大気中に多く排出されるということになる。様々な分野で脱炭素化を図ることと合わせて、森林を守っていくことも重要な手段であり、家畜飼料の生産のために森林を切り拓くことは見逃せない事実である。

 また、そのようにして森林が減ってしまえば、そこに住んでいた動物たちの生息が危うくなり、絶滅する動物も出てくる。そうして、地球環境のバランスを保っていた、本来存在していた生態系が破壊されていくという恐れがある。

4. まとめ

 私たち一人ひとりが行動を変えたくらいでは、意味がないと考える人も多くいるかもしれないが、私たち消費者の力は想像しているよりもはるかに大きいのではないだろうか。私たちの大半が普段から行える、商品を選ぶ、そして購入するという行為はその産業にお金を支払い、間接的にその産業を応援し、その産業の継続を支えることになっている。

 つまり、私たちが何気なく、買い物をしていたとしても、前述したような、その産業の裏で起こっていることを必然的に引き起こすことに繋がっているのだ。普段の買い物で、その商品を手に取る前にそれを購入することで、どのような影響が出るのか、少しだけ考えてみてはどうだろうか。

    

参考サイト:

*1 JCCCA(全国地球温暖化防止活動推進センター)

*2 ニッポンドットコムサイト

*3国連サイト

*4 The green, blue and grey water footprint of farm animals and animal products Volume 1: Main Report

*5ポール・シャピロ『培養肉が世界を変える』

*6 Hope for Animals

*7『Science』2018

*8 国連報告

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